嘘好き悪魔


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 どうやらリューゲは、彼と同じように人の思いを糧にする種族と、その種族の宿主にしか見えないらしい。
 そして宿主も、契約する直前(昨晩の私といっしょだ)から、契約終了までしか見ることができない。 契約期間中に、リューゲと同じような種族のひとと出会う可能性もあるとか。
 そして、嘘を喰らう悪魔はいま、私の隣で大はしゃぎしている。
「俺学校いくのひっさしぶりだなぁー! 2代、いや、3代前かねー! なんか面白い所ねーの?」
「ここをテーマパークとかと勘違いしてない?」
「えー。番長をかけてのタイマンとか、呼び出しとか!」
「あるわけないでしょっ!」
 思わず大きな声をだしてはっとする。幸い、周りには誰もいなかったけど・・・・。
 リューゲは基本的には私しか見えないから、リューゲに話しかけると、私はいわゆる不審者なのだ。今朝も、両親の前でそれをやって、大恥をかいた。
「ライの学校、つまんねーところだな」
「つまらなくて結構よ」
 今度は声を小さくしてこたえる。
 まだ登校してくるひとは少ないけど、うちのクラスにはそれなりに人がいる。
 それはアイツがいるからだ。
 がらっと引き戸を開けると、アイツの席の周囲には女子がいる。昨日数えたのと同じ、4人。
隣のクラスからくるってのがすごいし、学年をこえてくるのもすごい。これが愛のパワーってことなのかしら。
「・・・・よくやるわ」
「羨ましいくせに〜」
 隣で引き戸をすり抜けて、リューゲはわらった。
 うん、無視無視。
 きゃいきゃいと、アイツを囲んで色々話している。5人でどっかに遊びにいくらしく、女子はけん制しあっている。
「お前の好きな奴のまわり、おもしろいなっ。みんな嘘ついてるぜ〜」
 リューゲは口をゆがませてわらった。
 というか、それって嘘っていうより・・・・
「見栄はってるだけじゃないの」
 その言葉は、思ったより大きな声で、教室にひびいた。
 もちろん、それは斜め右の集団にはばっちり耳に入っていて・・・・。
 声にはだしてないけど、女子たちが「それってどういうことなの」という目で見てる。いや、にらみつけている。
 空中で爆笑している悪魔に何か言うこともできず、ただそっぽをむいた。でも、おなじクラスの檸檬だけは仕方ないなぁ、というような目でみていた。
 予鈴が鳴って、名残惜しそうに彼女たちは自分のクラスや席に戻っていった。
「あんたのせいなんだからね」
 未だ肩をふるわせているリューゲに向けてつぶやいた。斜め前のアイツが、振り向いて何かをごまかすように笑った。そんな顔で笑いかけられたくない。でも、そう言うことができるわけないので、気付かないふりをした。
 あれ? もしかして、また勘違いされたんじゃないの。

 それから、何度か気まずい時間をすごして、やっと下校時間。
「ったく! 今日はあんたのせいでさんざんな目にあったじゃないのっ!」
 誰もいない道を足をふみならして歩く。
 憤慨してる私をみて、またリューゲが笑う。反省のカケラもない。というか、私が怒ってもどうでもいいのだろう。
 彼の食料である嘘なんて、そこらへんにあるし。
「そうそう。ライが俺のために意識して嘘つかれても、美味くねーし」
「へー、そういうものなの」
「おうよ。嘘ってもんは自分のためにつくもんだからな。優しい嘘ってのもあるが、結局は自分のためだ」
 夢が無い・・・・。リューゲにそんなこと言っても無駄か。
「むーだむだっ」
 ケラケラとリューゲが笑う。こいつ、テンション高い・・・・。
「いーや、俺ってば2年近く宿主をさがしまわってたからなー。やっぱ見つけられたらうれしーわ」
 まさに満開の笑顔だ。なんとなくリューゲには似合わない。
 というか、そんなこと言われたら無理にでも嘘をつきたくなるんだけど。
「俺ってばいらんことまで喋りまくったな。てへっ」
 漫画のキャラみたいに、ウィンク+拳で頭をちょっとこづかれても困る。
 ・・・・・・あれ、私喋らなくても会話が成立してない? 恐ろしい予感がして、ふわふわ浮いてるリューゲをにらみつける。
「あんたもしかしてっ」
「おお、ライの心なら読めるぞ。だからこそ嘘が分かるんだし」
「はぁ!?」
 私のプライバシーはどうなるのよ!
思わずリューゲの腰羽をつかむ。いや、ちょうどい所にあったから。
「いってぇっ!! ちょっ、わかったわかった! つか、心で思うだけで会話できるんだから、便利じゃね。人の目気にしなくていいしっ」
 それもそうかもしれない。納得した瞬間に、ここは通学路だったのだと思い出す。
 慌てて周囲を見渡す。よかった。誰もいない。
 リューゲは羽をつかんだ手がゆるんだのを見て、すぐさま逃げ出した。
「意外に触り心地よかったのに」
「うそ・・・・じゃねー!? 神経生えてるんだからいてーよ!」
 俺の羽を触るなら鳥の羽を触れ、と悪魔はつぶやく。
 だって、鳥とかだったらうっかり羽を壊してしまいそうでこわいし。
 リューゲの羽ってなんか飾りっぽいし。
「実際にこの羽で飛んでるわけじゃないけどな。だが痛いものは痛い」
 そう言われても触りたい・・・・。だけど、とりあえずは家に帰らなきゃ。
「ライ、妖精さんをいじめるのはよくないと思うぞ」
「あんたは妖精なんてメルヘンちっくなものじゃなくて、悪魔でしょっ!!!」
「あ」
 その声は思ったより住宅街にひびいた。

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